narrative voyage ~旅と今ここを見つめて

多様な世界を感じるままに。人が大切な記憶とつながっていくために。

この空の向こうに⑬ ~子どもたちの未来が始まる場所とは

 

先日は、2日間限定ながら、久しぶりに外で仕事をしたことと、

障害福祉関連のドキュメンタリー番組を見たことで、

自分の仕事観みたいなものが、また揺り動かされた一週間だった。

 

仕事と、ドキュメンタリー番組とそれぞれ、落ち着いて記事を書ければいいのだけど、

おととい参加したオンラインイベントが、自分にとっても

世の中にとっても、気に留めておきたいことだったので、

色あせないうちに書いておく。

 

「第12回地域の居場所づくりサミット」というもので、イベント案内では 

子ども食堂などの活動の定着を目的に、展開事例紹介や団体同士の

ネットワークづくりにつながるセミナーです” と紹介されていた。

 

mow.jp

 

私はこれまで子ども食堂どころか、飲食関係の仕事は全くしたことがないが、

コロナ禍前から、居場所としてのカフェに大きな魅力を感じてきた。

 

子どもたちという存在は、私にとって高齢者や障害のある人たち同様、

なぜか自然に声をかけやすい存在だ。

コロナ禍になってからは特に、近隣でも、彼らの言動が心配な場面に出会っていた。

 

そして最近は特に調べていたわけではなかったが、このイベント情報が目に入った。

開催12回目で、あのマヨネーズで有名な企業による

キユーピーみらいたまご財団」と、「一般社団法人 全国食支援活動協力会」による開催だ。

 

何か実のある、子どもたちの“今”を知る話を聞けるかもしれないと思って、参加を決めた―――

 

そしておととい、6月17日。

Zoomを繋げてみると、「第12回地域の居場所づくりサミット」には

100名を超える参加者があり、

全国から寄せられる関心の高さがうかがわれた。

 

キユーピーみらいたまご財団の事業説明に続き、

助成プログラムの活動報告として、登壇されたのが、

“東灘子どもカフェ” 主宰の中村保佑さん。

 
私は気楽に耳で聞こうと思っていたのだが、
中村さんが話し始めて、1分と経たないうちに、紙とペンを取りに行くことになった。
これはノートを取る話だ、と思ったのだ。
 
引き込まれたのは、
「震災から28年、地域のつながりは希薄になりつつあります」
という出だしもあったが、
何と言ってもその、活動の長さと頻度と充実度だ。
 
25年以上の活動年数、年間300回の講座の中で子ども料理教室も12年。
 

https://tinyurl.com/47y7v2mr  

(東灘子どもカフェ Facebook トップページ)

 

活動当初、小学生だった子が大人になり、今は食の支援や学習支援も。
現在は約900名が登録、活発に参加している。
 
多世代交流も盛んで、中村さんいわく、
カフェには、“昔の子ども”(おじいさん、おばあさん)たちも多数顔を出すのだそう。
リタイアした魚屋さんが、旬の魚をさばいてくれる時間もあったり、
高齢者への弁当配布活動もある。
 
そんな人たちの協力を得ながら、子どもの食と学習支援を行っていたが、
さすがにコロナ禍は、子どもたちの出足を鈍らせた。
 
「そこで、スタンプカードを導入したんです。これがなかなか好評でして」
と中村さんの声が明るく響く。
 
私は失礼ながら、中村さんの笑顔を信じられなかった。
ゲームやスマホに慣れ親しんでている、今の子どもたちが、
そんなアナログな方法に乗ってくるのだろうか。
 
だけど、そのスタンプカードは子どもたちにはマジカルな効果があった―――
家の掃除でもいい、道路のごみ拾いでもいい。
小さなボランティアをするごとに、1個スタンプがもらえる。
10個貯まると、プレゼント的なものもあるらしい。
 
子育て支援者のアイディアだったそうで、
「スタンプカード自体もバージョンアップしています」と充実ぶりを語る中村さん。
支援者側も楽しんでいる様子が、良いなと思う。
 
食育活動は、実際に子ども食堂を開いたり、料理の作り方を教えたり、
みんなで交流することに留まらない。
 
子どもたちに活動発表の場を設けて、がんばった子には賞を出すこともあれば、
“友だちはいますか?” “社会のことに関心はありますか?”
といったような「食生活アンケート」も行う。
 
子どもに聞くにはしんどい内容もあるというが、
食育と居場所のスペースとして、子どものニーズをわかった上で
支援したいという姿勢なのだ。
 
しかし、中村さんの表情が曇る。
七夕で、子どもが書いた短冊に
“死にたい” “自由になりたい” という
文字を目にして、ショックを受けた。
 
一方、そういった子どもは学校では
“将来はオリンピック選手になりたい”とか
書いていたりするのだ、という。
 
わかりやすいゼロかイチかではなく、
0.1や0.2という微妙な振れ幅でさまよっている子たちの存在———
カフェ利用によって少しでもプラスのほうへ振れてくれれば、
と中村さんは希望をこめる。
 
そんな思いもあって、東灘子どもカフェは毎日オープンしている。
 
 
 
第二部の「地域の居場所づくり講座」では
東京・荒川区から、子ども食堂などの活動を活発に行う2団体が登壇。
 
“中高生ホッとステーション” 代表・大村みさ子さんは
野菜を無料配布した際、「菜っ葉をもらっても困るのよ」と
言われ、びっくりした。
ネグレクト系の家庭は特に調理の機会が少ない傾向があり、
ニーズに沿ったものを配ることが大切、と話した。
 

 
また、“フロイデ~ふれあい食堂~” 代表・櫻井則子さんは
子ども支援と合わせ、シングルマザー対象に弁当を配布している。
 
公式LINEで認知度を高めており、アレルギー対応の弁当も含め、
雨の日も風の日も配りに行くが、
まだ上手くつながっていない家族、子どもがいるのでは、と心配する。
 

 

実は、申込んでから当日まで、私の頭には、キャンセルすることも何度かよぎった。

冒頭に書いたような仕事観の揺れや、

暑さによる疲れもあり、

子どもたちの現状を聴くことで、また自分が考えることが増えてしまう、

とも思った。

 

実際、参加してみて、

“経済不況による、子どもの体験・経験の貧困”

という言葉にドキッとさせられたり、
聴いているだけで気持ちが塞がる瞬間もあった。
 
でも、それを超えるための数々の努力が、各地で日々行われていることを知り、
新しいエネルギーをいただいた。

 

イベント内では発表されなかったが、東灘子どもカフェがホームページ内で掲げた、
この「7歳からのハローワーク」は、40代大人にも十分響くものがある。

“味覚の目覚め” ”家族・友達・世間への好奇心”が、
しっかりそのスタートとして位置しており―――
 
そして、「仕事の目的は何か?」
そのキーワードが、“自分だけの楽しい領域”となっているところに
またすごく素敵さを感じてしまう。
 
活動継続の秘訣を聞かれた、中村さんの言葉が残る。
「365日開いていて、あとはおもちゃや何か材料を置いておけば
子どもは自然に遊ぶんですよ」
 
子どもが子どもらしくあれる社会は、きっと大人にも当てはまり―――
人がその人らしく生きていける社会ではないだろうか。