narrative voyage ~旅と今ここを見つめて

多様な世界を感じるままに。人が大切な記憶とつながっていくために。

My Days with Aotearoa ~南半球の海と空をめぐる冒険

 

今月の “こどもの日” に興味深い番組があったようで、

それに触発されたらしい、自分の走り書きのメモがあったので、書き起こしてみたい。

 

―——

TVで、子どもの“好き”を深掘りする番組を見た。

 

いま子どもたちに職業体験施設が大人気、というレポートも

おもしろかったが、

びっくりだったのが、幼少時から道路の信号機が大好きという少年の話だ。

 

今や(といってもまだ8歳ぐらいだが)国内で生産された信号機を

各種収集しており、番組の取材に対しても、

自宅のコレクションの棚を指し示しながら一つ一つ説明してくれる。

1つの信号機に、3社ぐらいのメーカーがそれぞれの信号を搭載している

場合もあるという。

 

彼はどうしてそこまで詳しくなったのか。

インターネットでの検索も大きいが、実際に父の運転で

大好きな信号機のある交差点まで、現場調査に出かけたり、

気になる機種の制作メーカーに電話までしてしまう行動力が、

大人たちの心も動かしてきた。

 

その結果、貴重な過去の信号機や資料が、

彼の手元に送られたりすることになったのだ。

 

一方、“大人”をやってきて、こちらはかれこれ数十年。

“好き”や”気になる”を探求しながら、深掘り続けられずの大人にも、

最近気になっていることがある。

 

それは18年も前に体験したことの記憶と共に立ち上がってくる、

大人ならではかもしれない“気になる”である。

 

ちょうど、こどもの日あたりに、

フォローしていたニュージーランドのギャラリー Pātaka Art + Museum

こんな写真を投稿した。

 

 

どうやらギャラリーで開催中の、新しい展覧会の関連らしい。

 

とにかく、この笑顔の彼らと、背後にある大きな木彫にひきこまれた。

彼らは一体誰か。

この魚が勢いよく彫り込まれた柱のような、船のような立体物は

何なのか。

 

私は2005年にニュージーランドを周遊しながら、1年ほど現地の生活を体験した。

 

先住民マオリたちとの出会いは、その中でも思い出深く、

この投稿にあるような、素朴な笑顔で、大きめな骨格と小麦色の肌をもつ人々は

マオリにかなり重なる感じがする。

 

でも、重なりつつも何かが違う。

船っぽい木彫の立体物も、マオリがつくる船とも、

また少し雰囲気が違う感じがした。

 

だけど、同時に懐かしさがどうにも否めず、

“戻ってきた”という感覚も大きく、

この写真から目を離せなくなってしまったのだ。

 

Pātakaの投稿は

“John Misky, voyager and expert boat-builder extraordinaire! ”

「すばらしい冒険家で船大工の、ジョン・ミスキー!」

と紹介している。

 

どきどきしながら、Check out his page” と書かれた

もう一つのFacebookページに進むと―――

 

https://www.facebook.com/mataliivaa

 

まさに、先ほど木彫の前でTシャツ姿で微笑んでいた、

あの彼である。

 

このサイト、"Matalii Va'a" は、

冒険家で船大工の彼、ジョン・ミスキー氏が中心となり、

サモアの伝統的カヌー」の建造を続けていること、

それは、1920年代にサー・ピーター・バックが残した記録に

忠実な手法で造られ、今も人々に伝えられていることを教えてくれた。

 

 

それほど長い映像ではないが、ミスキー氏が一人で木材と格闘し、

刃物を大きく扱いながらカヌーを形作る様子が見られる。

 

100年前の船を今によみがえらせようとする、地道な取り組みだ。

 

サー・ピーター・バックがどんな人物かは、詳しく書かれていないが、

おそらくイギリスあたりから来た研究者か冒険者などで、

当時のサモアに立ち寄り、先住民族のカヌー建造技術や

航海術を子細に書き残したのではないか。

 

そして"Matalii Va'a" の投稿を見ていくと―――

実際に、ミスキー氏がつくったと思われるそのカヌーで

海に漕ぎ出す活動も行われていることが分かる。

 

 

"Matalii Va'a" の投稿には、船が実際に海を進む動画も上がっている。

 

粗削りに見える船が、同じく粗削りで骨格の頑丈そうな人々を

乗せて、水に進んでいく姿は、たくましく―――

彼らそのものが太陽のようだ。

 

“I’m determined to have more Polynesian sails and sailors in local waters and I’ll build and share what I know to achieve it” - Misky

ミスキー氏は言う。

「もっと多くのポリネシアの人々が、地元の海に船を持ち、

自ら漕ぎ出せるように、私は船をつくり、

知り得ることを彼らに共有するのです」

 

"Matalii Va'a"が、Community Organizationと説明されているのも、

地域に根差した活動ならではで、納得する。

 

そして、地域の人々と、こういった船を制作すること、

船を漕ぎだすことが密接に存在している様子が、

私がニュージーランドで出会った先住民マオリたちの伝統の守り方に、

似通っている印象を受ける。

 

だから、とても懐かしいし、心ひかれる―――

 

“Va'a”は、カヌーを指し、

“Matalii”は サモアの人たちの見上げる“プレアデス星団”のこと。

(日本で言う“すばる”)

 

ニュージーランドでは、それは“Matariki”と呼ばれ、

早朝の空に“Matariki”の輝きが戻ってくると、新年が始まる。

マオリにとっての新年だけど、今は国民の休日になっている

大切な日だ。

 

サモアでも“Matalii”が特別な日になっているか、

調べきれていないけれど―――

 

南半球に浮かぶ、もう一つの島国サモア

彼らの船と星が、私の海と空をあざやかに拡げようとしている。

 

私の小さな冒険はまだ始まったばかりだが、

今日はミスキー氏と、5年の準備期間を経て海へ漕ぎだしたVa'aの

勇壮な姿をご紹介したい。

 

youtu.be

 

タイトルの “Aotearoa(アオテアロア)” は、ニュージーランドマオリ語での呼び名。

「白く長い雲のたなびく土地」を意味しています。