narrative voyage ~旅と今ここを見つめて

多様な世界を感じるままに。人が大切な記憶とつながっていくために。

この空の向こうに⑦ 人生の中で手に入れたいもの

 

 

おととい、都内で映画の試写&トークイベントに参加してきました。

いま気になるドイツの哲学者もトークゲストとして来日するということで、

映画以上に彼の話が楽しみだったわけですが―——

 

「今回の上映はいわゆるワールドプレミアで、まだアメリカでも

上映がされておりません。皆様には、写真撮影・録画はなさらないよう

お願い申し上げます」

 

司会の方からアナウンスがあって、上映スタート。

 

しかし、映画が始まって2、3分で、

うわ、どうしよう、という事態が発生。

 

目の前に急に大きな人が座ってきたとか、

さっき寄った店に財布を忘れたことに気づいた、とかでもなく、

それは、始まった映画を見ながらの、自分の頭の中の混乱で―――

 

事前の情報としては、この映画は

科学者や哲学者などが、

最先端技術の発展の原因であり、結果でもある“サイバー”という

新しい領域について語るドキュメンタリーで、

戦争や平和、⼈類の未来に及ぼす影響を探究する、というもの。

 

ドキュメンタリー好きで、コロナ禍でにわかにオンライン哲学対話などに

参加したり、哲学者の話す動画を見始めた私としては、

挑戦してみたかった分野だったのだけど―——

 

まさか、“字幕なし上映”だとは…!!

 

スクリーンでは、サイバー空間の研究者が、

TEDのような雰囲気で、にこやかに身振り手振りを含めながらも

さらに独り舞台で早回しな感じで、饒舌に語り始めている。

 

字幕なし―——

申込時にそんな案内もあったかどうか。

でも、司会も言うように、ワールドプレミア(世界先行上映)だから

字幕を付ける時間的余裕もなく、上映に至ったのかもしれない。

 

映画の中では、本日のゲストで来日、来場している哲学者も

登場人物としてかなりのパーセンテージを占めていた。

 

 

彼が、スクリーンの中で、水を得た魚のようにきらきらと、

“サイバー” 世界から生み出された現在の事象や、

想像しうる未来について語っている様子を、

まぶしく見させてもらったが―——

 

彼が語っていたその現在や未来の内容は、

時々、英語の単語を部分的に聴きとれても、

私の頭の中では、なかなか文章としてはつかみ取れなかった。

 

理解する前に、映画ではまた別の話者が登場して、

別の場面が展開してしまう、というのがあるにしても。

 

そもそもアナログ的な人間が、対極にあるインターネット空間や

AIのもたらすものに、“関心がある”からと

軽い気持ちでイベントに来てしまった。

そこに英語力不足が重なれば、消化できなくなるのは

火を見るよりも明らかだった。

 

上映後のゲストによるトークセッションでも痛感したのは―――

 

世界の人が何か専門的な分野を語る場面では、

分からないなりに、事前に関係者の著作を読んでいるとか、

その専門にかかわる知識を少しでも多く持っていたいということ。

 

そして、サイバーという、自分にとって完全専門外の分野はともかく、

100分ほどの上映の中で、何度かキーワードのように出てきたものが気になった。

 

「アダムとイブ」のような人間の根源的な話。

 

イスラエルパレスチナ」「米ソ冷戦」のような、

現在の世界の確執のターニングポイント的ともいえる関係性。

 

アラン・チューリング」という天才数学者が

コンピューターの発展にもたらした功績。

 

 

それらには、自分がこれまで、何度も様々な場面で遭遇しながらも

チューリングについてはベネディクト・カンバーバッチ主演映画「エニグマ」も観ていたが)、

世界史の中の「エピソード」として通過してしまっていた。

 

今はまだ分かっていないなりに思うのが、

それらを具体的に「構造」として、どう世界の中で機能してきたかを

捉えていけたら、自分の中で世界の理解度みたいなものが

上がっていくんじゃないか、ということ。

 

そして、そのための重要なツールである英語を、

まずは日頃から聴き慣れ、話すことが、どれだけ大切かということ。

 

イベント後半のトークセッションで、スクリーンの中でと同様に、

生き生きと持論を展開するゲスト哲学者も素敵だったが、

もう一人のゲストである大学の総長の話し方が、憧れとして印象に残った。

 

彼は通訳を使わず、直接英語で話していたのだが、

失礼をおそれずに言うと、彼の英語はすごく流暢な様子ではなかった。

 

でも、ご自身の意見・感想をスムーズに、同じ舞台上のゲストと

観客の私たちに伝える力を持っていた。

 

途中で疑問や気づきがあったら、躊躇なく発言する姿勢も、

快活で、見ていてすっきりするものがあった。

 

サイバーに関しては、理解は難しいかもしれなくても―——

 

私にとっても、

アートや生き方についての物語、そこに関わる人々を知って、交流しようと思うと、

やはり英語でのコミュニケーションは、さらに向上が必要なもの。

 

人生の中で(というよりはもっと早めに)、しっかりと手に入れたいものだ。

 


 

お題「人生の中でどうしても手に入れたいもの」